第13回 “目と食生活” 体にもうれしい旬の味(3月3日)

瞳みつめて 第13回「目と食生活~体にもうれしい旬の味」

 「ブルーベリーで本当に目は若返るの?」とよく聞かれます。古くはヤツメウナギから最近ではルテインまで、サプリメントの広告を目にしない日はありません。そのうえ「アンチエイジング(抗加齢)」という言葉もすっかりなじみになりました。
 いつまでも元気にすこやかに若々しく、それは万人の願いかもしれませんが、なぜか「アンチエイジング」の単語に違和感を覚えるのは私だけでしょうか?「アンチ・・・」と言うとプロ野球ファンの私にはいいイメージがありません。加齢を敵に回している響きがあるからでしょう。
 生きとし生けるものはすべて、誕生した瞬間から成長し、やがて成熟を遂げ、さらに老いを迎えます。その過程の中でそれぞれの瞬間にだけ感じ、味わうことができる経験や思いがあります。ひとの旬はファイト一発、元気ハツラツの青壮年期だけではありません。幼心の淡い感情や、年齢を重ねて初めて味わえる慈しみや渋み、その時々、ひとは毎日が“旬”そのものです。
 最近、稲作について教わる機会がありました。毎日口にするお米について実は何も知らなかったことに気づくと同時に、自然に委ねられた環境に手塩にかけて作られる農作物のありがたみを再認識しました。食卓に上る旬の食べ物には栄養だけでなく、渋味や作り手の心がこもっています。それらはいかなるサプリメントの錠剤よりも、目にも体にもやさしくうれしい魅力が詰まっているはずと思います。
 鏡の前に立ち、老いや疲れを嘆いていないで、どうか積み重ねてきた日々を尊び、今だけの景色を楽しんでください。山では登り道だけではなく、下山途中の風景に息をのむことも少なくありません。を迎える今の時季にはフキノトウやタラの芽のほのかな苦み、脂の乗ったニシンの甘み、サヤエンドウの青い香りが楽しみです。
 自然と自分の旬を愛でながら、さあ「好加齢」でいきましょう。

総合新川橋病院
副院長 眼科 薄井紀夫

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