第11回 “硝子体” 新たなアプローチの場(2月3日)

瞳みつめて 第11回「硝子体~新たなアプローチの場」

 目の中には一体何が詰まっているの?
 目の容量の大部分を占めるのは水とコラーゲン物質から成る硝子体という液体です。
 以前、目の中を出入りする水のバランスが崩れると、眼圧が高くなり緑内障になるとお話ししましたが、その水(房水)は、実は角膜と水晶体で囲まれた目の前の部分だけを循環しているにすぎません。
 透明で粘性がある性状から生卵の白身に例えられる硝子体は、生涯にわたりほとんど循環することなく透明性を維持しています。とはいえ長い年月の間にごく小さな混濁を生じることもあり、これが「黒っぽい虫やアメーバみたいなものが飛んで見える」という症の原因になります。この混濁は消えるものではありませんが、進行もしないので、次第に慣れて気にならなくなるものです。
 その昔、手術をする眼科医にとって硝子体は決して触れてはいけない組織でした。それは硝子体に手を加えることで繊細な神経組織である網膜に障害を及ぼしかねないと考えられていたからです。ところが最近は、この硝子体を取り除き、さらに網膜にも直接触れて処置をする「硝子体手術」が広く普及し、安全確実に多くの疾患を治せるようになりました。また、硝子体へのアプローチは手術だけでなく、薬剤を直接眼内に投与する「硝子体注射」も盛んに行われています。
 手術で硝子体を取った後は代わりに何を入れるの?
 取り去った硝子体の代わりには、房水の組成に近い水、空気、膨張する特殊なガスなどを入れますが、やがてそれらは房水に置き換わり、その後も房水が目の中を満たし続けます。
 白内障手術の人工レンズに限らず、眼科医はいろんなものを眼内に入れちゃうんですよね。今の時代、目の中に入れても痛くないのは、かわいいお子さんやお孫さんだけではなさそうです。

総合新川橋病院
副院長 眼科 薄井紀夫

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